雪の上の楽しみ
20年ほど前、アメリカから、今までの滑りのスタイルにとらわれないスキーが日本にやってきた。
季刊誌である「SKI」とか「SKIER」といった雑誌も、まだシーズンに1回しか発刊されなかったころだったと思けれど、それらの本にも一部とりあげられたりしていた。
そのスキースタイルは「パラレルクリスチャニア」(おお、なつかしいひびき!)やら「ウェーデルン」の完成を目ざして、そして「いつか1級を」と夢見て練習に励んでいたぼくにとっても(そのことは、それはそれでとても楽しいことだったけれども)とても斬新で今までのスキーとはまた異なる魅力を感じた。
これが今をときめく「フリースタイルスキー」の原形で、当時は「ホットドッグスキー」とも呼ばれていた。中国系のアメリカ人ウェイン・ウォンというスーパースターがいて、これがコブをひらひら、ぴょこぴょこと実に楽しそうに滑る。緩斜面ではくるくるぴょんぴょんとまるでフィギュアスケートのように降りる。ジャンプ台ではそれまでゲレシュプしか知らなかったぼくの見たこともないようなジャンプを見せる。昔のフリースタイラーはこのように結構オールラウンダーだったのだ。
ともあれ、すべてが自分のやってきた世界とちがう。すっごい楽しそうやん。もう目からうろこ、、、。
んで、スポーツノートという、ちゃちな解説本(といっても、そのころそんなものをまともに取り扱ったものはほとんどなかったので実はバイブルだったかもしんない)を買ってきて、バレーのわざの簡単そうなものからいろいろやってみた。
最初に載っていたのは、斜めに滑りながら肩、首を内側へ巻き込んでイモムシみたいにころがって起きるというやつ。これは結構ころがっている間に流れが止まってしまって、うまくイメージできなかった。次はなんかマット運動の前まわりみたいなんをして最後に背筋を使ってブリッジみたいに起き上がるやつやった。(こんなもん、今ではバレーのわざにも入らんと思うけど)こんな事が、ばかばかしいけどほんまに楽しかったよ。だってねぇ、、転がるとこからはいるんやで。こんなスキー考えられる?
ちょうどそのころ白馬乗鞍でいそうろうをしていたんだけど、タイミングよく第1回のフリースタイル大会が行われ、米国の本場のフリースタイラーを生で見れたのもラッキーだった。今の、ルールで縛られたフリースタイルの選手たちと違って、みんな実に楽しげだったからね。モーグルだってスピードを競ったわけじゃなく、たのしくぴょんこぴょんこ飛び跳ねてた。ぼくも見よう見まねでやってみたら、なんかそんな感じが体得できて、すごくハッピーだったのを思い出す。
んでね。そのときに思ったの。スキーはごっついうまくなりたい。けど、雪の上の楽しみはほかにもまだまだ無限にありそう。それを見失いたくないなぁってね。雪の上では、いつも楽しんでいたい。ぼくは雪の上におれたら、それでほんまに幸せやなぁってね。技術の行き詰まりなんか、それはそれでええねん、長い目で見てへたくそになっていく訳やないねんから。
いそうろうをしていた宿の喫茶が忙しくなりそうな気配があると、ゲレンデから客を追い越して店のカウンターの中へ飛び込む日常をすごしていたぼくと友人の大澤君は、ゲレンデの遠くまで行くことができないとき、喫茶の前に小さなジャンプ台もつくったりして遊んでいたよ。そうやって雪の上の楽しみをどんどん広げたんだ。
ある日喫茶店でコーヒーをたてていたら、そのジャンプ台を地元の若いスキー教師がとんでいくのが見えた。高く飛び上がったかと思うと体を思いきり反らし、スキーのトップを真下におとして、、それは一瞬のできごとで、もう残像しか残っていなかったんだけれども、、、。
「な、なんやぁあれはぁ、、、、、大澤くん、あれ、やってみろや」
同レベルの友人に先にやらせてみることによって難易度をチェックしたりして、卑怯者やったよなぁ(笑)
それでね、ま、モーグルも盛んになった今、ぼくは約20年前からバックスクラッチャーやバレエをやっていた基礎スキーヤーなのだ、というのがひそかな自慢であったりするわけです。